月夜見 
残夏のころ」その後 編

    “さあ走り出せ”


苛酷な暑さと節電の板挟みだった夏が、
規制上の、若しくはお役所仕事上の暦の中では何とか終わり。
それでもまま、自然現象の“残暑”は
依然としてずるずると引き続いている九月を迎えて。

 「二学期だねぇ、ルフィちゃんたちには。」
 「宿題はちゃんと出来てたのかい?」

今日のお値打ち、売り出しだよというポップの出された、
ホウレン草やらキャベツにカボチャ。
レジまでの手提げ籠に同じように放り込んでた、
同世代だろうご贔屓筋のおばさまがたが。
ガッコは始まったが今日は土曜ということで、
昼間の内から店にいた、
一番若手のバイトの坊やへそんなお声を掛けており。

 「宿題は済ませてたサ。」

そこは抜かりありませんと、
ぱきーっと微笑った優等生さんだが、

 “まあ高校生の宿題ってのは、
  英訳とか問題集とか、
  割と丸写しの利くのが多いからねぇ。”

これが小学生では、
絵日記だの読書感想文だの、自由研究だのと、
各々で手をつけるしかない代物が結構あるが。
英訳にせよ古典の現代訳にせよ、
数学や物理の問題集にせよ、
創意工夫はあまり幅を利かせぬものが大半であり。

 “ちゃんと消化したかをチェックする、
  先生の負担も考えてのことかもね。”

お勉強の成果は、
いちいちノートを端から端まで読むのじゃなく、
ではテストでどれほどこなれているのかを見ましょうねで済む、
そんな学齢でもありますからねぇ。
要は、頭の回転が長い休みのせいで鈍ってなければ御の字なので、
丸写しが絶対悪いとも言えぬ。
流し聞きならぬ、書き写し学習法ってのもありますので、
それでだって勉強のための部位は覚醒するってもんでしょし。

 「毎度あり〜♪」

産直スーパー“レッドクリフ”の、
青菜担当のルフィ坊やの売り場では、
ホウレン草とチンゲンサイが売り出しで。
今日も好調な売れ行きなので、
ついつい鼻歌が出るほどのご機嫌な様子。
単なるバイト、
搬入量の工夫とかどうとかに
創意工夫を織り込める立場ではなし、
よって、特に売り上げ成績で
何か扱いが変わるってもんでもないのだが。
商品が売れて品薄になれば、

 「小松菜とホウレン草、補充しましょうね。」
 「あ、おうっ。お願いしますだぞ♪」

そちらさんは完全なる裏方の搬入班。
仕入れ先にあたる近郊農家から、
朝どり野菜を運び入れる軽トラ部隊の若手で、
時間が空いてりゃあそのまま店内へのも補充係も担当している、
短髪の背高なお兄さんが。
新鮮な荷を運んで来てくれるし、
何だったらと並べるお手伝いもしてくれる。
ルフィ坊やが実は高校三年で、
ええそんな最高学年だったの?と驚かれてしまう以上に、
そっちの彼はといや、
仕事の合間にたばこくわえてたって違和感ないほど貫禄あるのに、
実はまだ二年生だというから驚きで。

 “でもなぁ。
  ゾロの場合は、怪我してダブってるだけだしよ。”

本当はネ、ルフィより年上の大学生年齢で。
でもだけど、
まだ高二だし、ここでのキャリアだって下だからって、

 「小松菜は此処までで いいっすか?」

平台には売り出しのホウレン草。
棚になったところへ、
チンゲンサイと小松菜を並べていた手筈を
そうと訊く彼なのへ、

 「まぁた、ですます使うだろっ。」

他人行儀なのは こしょばゆいって、と。
いやがるルフィなのもいつものことならば、

 「そうは言いますが。」

俺は後輩ですっしねと、
理にかなったことをしているだけだとばかり、
譲らぬゾロなのもいつものこと。
そんな言いようをしつつも、
手際の悪いルフィを見かねて手伝ってやるわ。
腕力やら背丈で勝るのでと、
トラックの荷台に上がるとか、
ちょっと手ごわい段差を前にすると
自然と動作が止まるおちびさんなルフィへ向けて。
必ず手が伸び、何なら小わきに抱えてという扱いで、
頼もしいフォローをしてくれる彼でもあって。
長い足やら雄々しい腕やら、男臭い所作やら精悍な風貌やら。
大人ばかりに囲まれ構われて育ったルフィにしてみりゃあ、
かなり年の近いところが、
頼もしくて懐きやすいお兄さんが現れたようなもんだのに。

 せめて対等なら、甘えやすいのにな、
 先輩だからって扱いされっと、
 こっちまで背条伸ばさにゃいかんみたいで…と。

そうとスラスラ言えるような子なら、

 “焦れったい間柄なまま、
  こうまで続くって運びにはならなんだのだろうがな。”

甘酸っぱいったらありゃしないと、
周囲の大人の皆様としちゃあ、苦笑が絶えない様子でもあって。

 「………お。」

売り場の平台の陰へ、
私物のカバンを置いてるのが覗いたところをみると、
ロッカールームを経由しないで此処へ出て来たルフィならしく。
そうと読んだゾロらしいのにそちらでも気づいて、

 「あ、うん。このあと、ガッコに行く予定なんだ。」

土曜で休みだが、昼からちょみっとガッコで集合かかっててと、
後ろ頭をほりほり掻いて見せ、

 「体育祭の応援団の練習があるんだ。」
 「ふ〜ん。……あれ? でも。」

応援団て、確か去年もやってませんでしたか。
そもそもそういう部活があるんですか、
あ・いや、柔道部ですよねと。
あれれぇと疑問に思ったらしいこと、
つらつら並べたゾロ兄だったのへ、

 「〜〜〜〜〜。//////」
 「?? 先輩?」

真っ赤っ赤になった小さな先輩をつつけば。
何でそんないっぱい知ってんだよと
あたふたしたのを何とか押さえ込み。
あ、いやいや、あのそのと、もじもじしつつ、

 「柔道部や剣道部は、
  声が張るしタフだし、道着を着慣れてっからサ。」

それと、
年によっては学ランじゃなくて袴姿にもなるらしいんで、
自然と武道部員が抜擢されやすいんだな、と。
一通りの説明してから、
バッグに手を延べて取り出したのが、妙に長い長い布で。
白くて長くて、よいせよいせと引き出された途中に
赤い丸が染めてあったんで、
ああそっかこれってと察しがついたその通り、

 「鉢巻きもこ〜んな長いしな。」

しかも普通の巻き方しないんだ。
でこに水平にって、
昔の武将が此処に鋼のついてる鉢当てってのを巻いたみたいな、
そういう巻き方するんだって…と。
引っ張り出したのわざわざ巻いて見せれば、

 「………可愛いじゃあないっすか。」
 「先輩だと思ってんなら、その言い方はよせ。」

確かになぁ。ルフィくん、座布団一枚。
ゾロくん、つい見ほれて見失ったな。
おおお、副店長も座布団一枚…なんて。
周囲がこそりと さわめいた、
そんな九月の初めの週末でした。





   〜どさくさ・どっとはらい〜  2012.09.09.


   *あああ、何のこっちゃですな相変わらず。
    つか、いつまでこんな調子なんだ、あんたたち。
    波乱も起きなきゃ進展もないとは。
    いっそ敬語プレイ中って
    妖しいサブタイトルつけちゃうぞ?(こらこら)


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